Episode1 J.M.Weston 641 Golf Derby

突然こんな導入からのスタートですが

みなさまの下駄箱あるいはシューズボックスに革靴ってありますか。

革靴と一言にいってもビジネスシュースであるとか、マウンテンブーツであるとか

用途も様々なのでかなりざっくりとしたくくりになってしまいます。

言ってみればスニーカーも革で出来ていれば革靴になっちゃうね。

と、そのぐらいにしておいて、僕の下駄箱にはちょっとだけ革靴というのが鎮座しています。

そんなに沢山の数があるという訳ではないのですが、その中から

僕がお洋服に微妙な執着を持つようになったきっかけとなる革靴さんがいらっしゃいます。

 

メーカーは「J.M. Weston」というフランスの靴です。

雑誌とかにちょこちょこ載っていたりするのですが、どのお店にも置いてあるって

感じではないので案外お目にかかる機会は多くないです。

こちらは紳士靴を主として商品を展開していて、歴史もそこそこ古い。

所謂「靴好き」の人であれば一度は手にしようかと考えたり、実際に手に取られたこともあると思います。

そのラインナップの中で

  • 180という型番のローファー
  • 641という型番のダービーシューズ

こちら2つが特に有名なモデルです。

この641というダービーシューズが特に自分の琴線に触れたのか

色違いで茶色と黒色の2足、下駄箱に構えております。

一番最初に購入したのが茶色のもので、今から5年前ぐらいだったと思います。

その時の僕は大学を中退して実家暮らしのフリーターというなかなかヌルい生活を

続けていたのですが、周りを特に気にする方でもない自分でも大学に所属している高校の同級生達はいよいよ就職しますみたいな時期で、どこかで焦りのようなものを感じていました。

同時にその頃、それまで身に着けるものは全部親が買ってきたような装いだった自分にも

ちょっと色気付くというか「ファッション」に興味を持ち始めていました。

繊細さは持ち得ないけれどちょっと凝り性という性格の僕はそこから外面的なところより

服そのものへの興味が強くなり、少し値が張るものを購入してみたりという機会も増えました。

そんな中でいよいよ「思い切ったものを身に付けたい」という感情が自分の中に湧いて出てきました。

それは何者でもない自分に少しでも確固たる外殻が欲しかったから、

というのは今振り返って分かったことですが

「自分の足元を、歩みを確かなものにしたい」

これは当初から意識したことでした。

雑誌でみたのかインターネットで調べたのかもおおよそ定かではないですが、

上記のダービーシューズに惹かれ大阪心斎橋にある旗艦店に訪れることになります。

やはり値段が値段なのでビビって友人に付いてきてもらったのも、

今振り返ればかわいいとこあるやんって感じですね。

足の計測をしてもらい、まずは出てきたサイズにビックリしたのも懐かしいです。

「靴は27.5cm」というざっくりした認識しか持ち得ていなかった僕にとって

「US 7.5サイズ、単純な換算で25.5cmの靴」出てきました。

これも今振り返って懐かしいのですが「すごい、ぴったりだ」という驚きがありました。

その後は訳もなくその靴で決して広くはない店内を1時間はウロウロしたと思います。

立ったり座ったりぎこちなく歩いてみたり、鏡を見てみたり…。

間違いなくお店の方には「冷やかし」だと思われていたので

「ベルトとかもご用意ありますよ」と案内いただいたのも記憶に新しい。

そんなこんなで悩んだ末(本当は悩んでいない)に購入に踏み切りました。

これは決して大袈裟な表現ではないのですが、やはりそこそこの価格帯の革靴は

重さがあり、シューツリーもついているので包装された商品を持ち歩くのは

異様な重みがありました。金額がどうこうではなく、単純に重量そのものが重いです。

このJ.M. Weston 641という靴、見た感じでは「その辺のおっさんが履いてそうな靴」だと思います。(その辺のおっさん、ごめんなさいよ)

捨て寸がほとんど無いのでボテっとしていて「値段が張るわりにモサい」

かっこよくキラキラしていない感じは拭えません。

僕がこれに惹かれたのは「なんか中途半端な見た目が如何にも自分らしい」という理由と

「歩きやすいという評判」「雨に強いという評判」があったからです。

中途半端な見た目というのは主観が強いのでさておき

歩きやすいというのは確かだと感じています。

適正なサイズを選んでギュッと靴紐を固めればこんな革靴でも10キロぐらいならそこそこ歩けちゃいます。

僕は傘をささないのですが、雨の日に履いてもシミになることはない不思議な靴です。

シミになることは無かったのですが、全体的にフィットが緩めになっていたことと

インソールに皮脂が溜まってツルツル滑るような履き心地になった時期があったので

お風呂にお湯をはってドボン!したら、上記の問題はクリアになったものの

染料が不均一になったのか、糊が浮いてきたのか、かなりシミだらけみたいな見てくれになっています。

また、その時にシャンクも一緒に縮んでしまったのか今では歩くたびに

便所スリッパみたいな「キュッ、キュッ」という情けない音も出ております。

旗艦店で聞いてみたところ、オールソールの際に直るかもしれないのだそうです。

この靴を何も考えずお風呂にドボン出来るのは、世界広しと言えどもおそらく僕ぐらいなのでご参考程度にどうぞ。

そんなこんなでそこそこの年数を共にしてきましたが、見てくれはお世辞にも綺麗とは言えないものの、ちょっと使い込んだ感じは出ているように思います。

そして当時「サイズがぴったりだ」と認識していたところにも「実はぴったりではない」というの変化が訪れました。

試着の際に「ほんの少し、左足に比べて右足が小さいですね」とお店の方は

仰っておられましたが、今それをはっきりと認識しています。

具体的にいうとこんな感じで、右足の踵だけ内側が部分部分で削られたような様相になってます。

これはほんの少し右足が小さいことによるズレが生み出しているのかな、と。

右と左で甲の部分のシワのつき方も違いますし。

ほとんどの人の足が左右で非対称なので、ここらを完璧にするには靴を木型から作ってもらうしか

ないのですが、冒頭でも述べたように僕はそこまでの繊細さを持ち合わせていません。

革質も完璧に均一でないものの、ものすごくきめ細やかなカーフを使用しているのか、

多少のかすり傷であれば手かブラシでこするだけで治ります。マジです。

 

長くなりましたが、当初から意識していた「歩みを確かなものにしたい」

というのは果たして達成されているようには思いません。

以前何者でもないのは変わらず、今も外殻が不安定です。

だとしても、そうだとしても、あの頃の僕は毎日同じ景色を見ていた。

退屈していたように思う。

今はちょっとだけ忙しいような気がするし、いわゆる趣味っぽいものとかも

はっきりした。

やりたいことと、やりたくないことがはっきりした。

そんな歩みを支えてくれているきっかけがこの一足。

よく知らない街を、歩いています。