「魔法使いの夜」をクリアしたので雑感

先日発売された魔法使いの夜のフルボイス版が発売され、以前からTYPE-MOON作品に触れてみたかったので購入しクリアした。
そこで感じたことを書き綴っていく。

ビジュアルノベルというジャンル

本作は広義のアドベンチャー(ADV)の中でのビジュアルノベルというゲームジャンルに分類されるゲームであり、進行は通称の決定ボタンを押すかあるいは自動進行モードフラグを有効にするか
によって物語の頁が捲られることになる。
よってプレーヤーに要求する前提知識や高度な操作技術などを要求しないので、手に取っていきなり挫折してプレイしなくなるというようなことはまず起き得ない。
その一方で、プレーヤーへ与えられる刺激は大部分が「物語が進行すること」であるので、ゲーム及び娯楽の選択肢が高度化・多様化した2022年では手に取ってもらう以前にフィルタリングされてしまって、
プレーヤーの選択肢になかなか入らないということが現実としてある。
ゲーム画面を動画配信サイトに録画して投稿もしくはリアルタイム配信することが広まっている今日で、ビジュアルノベルを配信するようなことは制作側からするとネタバレにつながるので頭が痛いところであるし、
かといって多人数で一緒にプレイするようなこともまず無いので「友人と一緒にプレイするから購入する」というようなシナジーも生まれにくい。

このような時代に発売されたのが本作であり、前身としては2012年にPCで発売されているものをフルボイス化して家庭用ゲームハードでリリースということになっている。
TYPE-MOONといえば昔からコアなファンが多い中で近年では「Fate/Grand Order」などはかなりメジャーヒットしている作品であると認識していて、
その追い風もあって本作のリリースも可能になったのではないかなと勝手な推測をしている。

時代背景について

本作の時代背景は1980年代後半ということで本稿からおおよそ30年前ぐらいのお話ということになる。
筆者はこの時代にまだ生まれていないこともあって憶測も多いが、おおよそ当時の生活の様子が再現されていると思われる。
今でも街中では存在するものの、携帯電話の普及に伴って今では数がめっきり減ってしまった緑色の公衆電話が演出に登場したり、
テレビは分厚いブラウン管で録画にはビデオテープが使用されていたり、
音楽プレーヤーはカセットテープやCDプレーヤーなど今ではあまり見かけなくなったテクノロジーが登場する。
土桔 由里彦と久遠寺 有珠がペンフレンド(文通仲間)であるという設定もまたインターネットが台頭する以前であるということを感じさせる。
また、筆者が一番気になったのは久遠寺邸にやってきた蒼崎燈子が煙草を吸うシーンなのだが、これを見て最初は「部屋に残った煙草の匂いで来客があったということに気付くのではないか」と
思ったのだが、後から振り返るとこの時代はまだまだどこでも喫煙可能、ましてや持ち家の居間などは
煙草の匂いが染みついていて判別ができないだろうという見解に落ち着いた。
このようにインターネットが一般に普及していない時代背景ということで現在とは隔世の感はあるものの、
世の中が十分に近代化している・さらに発展の余地を残している様子というのは描かれており、それは本作においても重要な描写となるのでぜひ注目されたい。

選択肢が登場しない物語(続・ビジュアルノベルというジャンル)

また、本作はビジュアルノベルでも珍しく番外編を除いて選択肢が一切登場しない。
自分の場合、謎解きサスペンスものであれば良いのだが、そうでない場合に分岐があると貧乏根性なのかどれも把握しないと気が済まず、ゲーム進行に支障が出る。
これなら映画やアニメーションで良いのではないかなと思う方もおそらくいらっしゃるが、自分はこれはこれできちんとしたゲーム性であるように思う。
最近のAAAタイトルになるとリアルタイムレンダリングでキャラクターの産毛まで描画されているというような時代の中で
いわゆる紙芝居のように揶揄されがちなビジュアルノベルというジャンルだが、本作の場合
テキストの表示は画面全体を使って行われており、ただの字幕ではなく、そのシーンで読ませたいテキストを音声と共に表現する
という点で小説の拡張という意味でまさしくビジュアル(サウンド)ノベルと言えよう。
そこでプレーヤーには次のシーンへ進むのか、あるいは落ち着いて今のシーンを咀嚼するのかの自由があり、この「間」を堪能するのは
映画やアニメーションではなかなか難しいはずだ。
決定ボタンを押さないということと、一時停止ボタンで時を止めるというのでは見た目は似ていても意味合いが異なる。

終わりに

本作ですべて完結したというわけではなく、おそらく続きがありそうな伏線のようなものが散りばめられていて
リリースされるのであればぜひ楽しみたい。
また、本作の季節が雪の年末という中で発売も年末に合わせてきたのは偶然かどうか図りきれないものの、なかなか粋であった。