あの日、恵比寿の街で道案内をした。

ちょうどこの3月、東京に遊びに来ていた時があった。

2泊3日ぐらいで服屋さんを巡ったり声優さんのイベントに参加したりなどなど好きなことやっておりました。

服屋さんを目指すため、渋谷駅から白金台の方にテクテク歩いている日。

僕にとって歩くというのは特別なことでは無いのですが、200えんぐらい払えば10分と掛からないとようなところまで

歩いて3、40分ぐらいかけてネリネリしていると、「なんとまぁ贅沢な時間の使い方だな」と毎度再認識します。

そんなこんなしっちゃかめっちゃかいつもの調子で闊歩していますと、恵比寿の駅あたりで少し道に迷ったのでした。

心配ご無用、いつもの調子でオッケーグーグル明後日の方角は?と目的地を確認して、さぁ向かいましょうとした矢先

やや追い詰められた表情の、きちんとおめかししているマダムにお声掛けされたのです。

3つ折りされた紙をピンと伸ばし、印刷された目的地を指して

「ここに行きたいけれど道がわからなくて」、と。

出ました。

私、何故かは全くわからないのですが、どこで生きていても、どんな格好をしていようとも邦人・外国人問わず、

よく道を尋ねられるのです。

どう見ても自身に現地感が出ているような風貌とは思えないのですが、

そこはそういう星の下に生まれたのだろうなと自己暗示をきかせて

毎回グーグルマップ片手にご案内してきたのでした。

そんな僕にとっては、この道案内もやはり造作のないことで

「あちらの方かと思います〜」という感じでマダムを導き、見送った。はずでした。

なんだか分からないけど見送った後にもう一度マップを見てみる。

 

逆だ。

逆方向に案内してしまった。

 

急いでマダムが向かった方に振り返ると、居ない。

やってしまった。

確か、「17時から開演で・・・」というようなことを溢していた気がする。

今は16時55分。

とりあえず誤って導いた方向に走る。

こんな人の多い街で、おめかししたマダムを探すってのはめちゃくちゃ難しい。

いない。

やはり。

やはり、いない。

 

その後ウロウロすれどもマダムを見つけることはできず、結局17時15分ぐらいになってしまった。

そこからは、自分がどこへ行く途中だったかも忘れて30分ぐらいあたりをウロウロしていました。

やりきれなさとやりきれなさに、正に行き場を失った。これでは人殺しではないか。

「だいたい、あのマダムが悪いんだよな、今時印刷した紙切れを頼りに目的地に行くなんてさ」

などなど、今度はそのやりきれなさをマダムのせいにしてしまおうという感情が浮かんでは消えたりを繰り返し・・・

というのを30分ぐらい続けていたら、喉元過ぎれば熱さ忘れるの慣わしのように

ケロッと我に帰り服屋さん巡りなどを再開したのでした。

はい、話のオチは無いのですが、オチを付けられないからこそ

今でも忘れることが出来ないワンシーンとなっているのです。

 

あれから1年ほど経ち、やはり今でも道を尋ねられることは多いのですが、一つ

「もうちょっと親身に案内しよう」と心がけるようになったり、

あとはグーグルマップを信用しすぎないことだったり。

 

というようなわけで、ご所望あればお導きいたします。